「東京干潟」は、河川敷に暮らす篤き志をもった一人のおじいさんの生きざまが、村上浩康氏の鋭い切り口と熱情的な行動力によって記録された感動を呼ぶ秀作である。
河川敷という場所は思いのほか過酷で危険な所でもある。日影が少なく、夏は市街地よりずっと暑く、冬は冷たい北風の影響でその体感温度は約4℃下がる。加えて、台風やゲリラ豪雨などによる河川の氾濫によって命を落とした人も少なくない。
さらに、あるまじき事だが、差別や偏見の対象とされ、心無い人からの嫌がらせや襲撃を受けることさえある。
そんな場所に根をおろし、干潟という漁場での重労働に耐えるおじいさんには凛としたものがある。
そして一環した生きていくための強い信念は、同時に河原に捨てられた名も無き猫への慈悲深い愛情として注がれる。
自らの苦労があればこそ、飼い主から見放された餓死寸前の猫の辛さがよりよく理解できるのではないだろうか。おじいさんは我が身を削ってまでも、猫がその生涯を全うするまで守ろうとしている。
余計な装飾もなく、「あるがまま」のこの作品は現代の競争社会に欠けているものが何なのかも考えさせてくれる。
小西 修
広告写真を手がけるフリーカメラマン。
1989年より多摩川河川敷に遺棄された犬猫の保護・救済活動を30年間に渡って夫婦で続ける。
また、そこに暮らすホームレスの方への支援も続けている。